飯田孝則先生インタビュー
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飯田孝則先生インタビュー

飯田孝則先生プロフィール
1981年(昭和56年)愛知県農業総合試験場に勤務、イチゴ、サトイモ等のウイルスフリー化などに従事され、農業総合試験場の分場である山間農業研究所に転勤後、自然薯を担当する。ウイルスフリー化、育種及び栽培技術の開発をはじめ、山間地域の特産物育成に関する試験研究に従事されたのち、定年後はJAあいち豊田の指導員としてご活躍されています。
  

著書/執筆の紹介

  1. 新特産シリーズ「ジネンジョ」
    ウイルスフリー種イモで、安定生産、上手な売り方と美味しい食べ方
    発行:農山漁村文化協会
  2. 農業技術大系 野菜編 第10巻 「ジネンジョのウイルスフリー種苗」
    ウイルスフリー種苗の育成と供給
    発行:農山漁村文化協会

 

 

飯田孝則先生インタビュー内容

 

 

中村:
初めまして、本日は自然薯研究家として飯田先生にインタビューさせていただきます。
まずは簡単ですが私のプロフィールをご紹介します。横浜に在住しています。某大手の広告代理店の制作会社に勤務しておりました。10数年前から野菜の栽培を始め、市民農園を借りいろいろな作物を育て行く中で、自然薯と出会いパイプ資材を使用したり、栽培方法が確立されていないことなど、その魅力に取りつかれてしまいました。2014年にJA後援の「家庭菜園検定」試験1級に合格後、就農を決意し、神奈川県三浦半島の農家さんに作業を手伝う傍ら、農地を借り自然薯の量産(200本)を開始しました。三浦で自然薯栽培を広めようと働きかけましたが、専業農家として代々受け継がれてきているので、新しい作物を取り入れるのは容易ではないとのことで断念し、関東近郊の自然薯産地を調査したのち、神奈川県伊勢原市で自然薯栽培が盛んなことを知り、市役所に赴いたところ歓迎されたため、就農を決意し2016年の秋より「農業生産法人(株)ファームいせはら」に研修生として就農しまして、2017年4月より独立いたしました。それと同時に自然薯を継続して量産する上で、ウイルスフリー化が不可欠であると思い、6月より神奈川県農業技術センターにて飯田先生の資料を参考に自然薯の茎頂培養を開始しました。
中村:
それではインタビューさせていただきます。まずは、自然薯に携わるきっかけをお聞かせください。
飯田先生:
愛知県では昭和50年代から自然薯の栽培がおこなわれていましたが、栽培した自然薯を繰り返し種芋として使うことで、ウイルス病が蔓延し、収量が低下していました。そこで山間農業研究所ではこの課題の解決に取り組み始めそこに担当として加わりました。自然薯は愛知県の山野で自生していたものを採取するか、他産地から購入するなどして各地で栽培されていましたが、形質のバラツキが多く、その中から栽培に適した優良な系統を選抜し、ウイルスフリー化を行い、愛知県下の栽培系統を統一しました。
中村:
そうですか。当時ですと栽培した自然薯を翌年の種苗に使用するのが当たり前だったと思いますので、ウイルスフリー化は画期的なことですね。さすが県の農業施設ですね。
中村:
ウイルスフリー培養で、茎頂摘出を効率よくする方法はありますか。今まで400個くらい茎頂の摘出を行いましたが、培養で成長しているのは、今のところ10個です。2.5%の確率となっています。
飯田先生:
残念ながら地道にやるしかないですね。ヤマノイモ科の自然薯は粘りがあるため、茎頂の摘出が難しいのですよ。私も経験ありますが、茎頂の大きさが約0.3㎜と小さいので、粘りでメスが滑ってカットが難しいのですよ。それにポリフェノールによる酸化などにより、摘出後の培地上での成長するものは他の作物と比較してもかなり低い確率です。
茎頂を0.5㎜位に大きく摘出すると培養での成長は良くなりますが、ウイルス感染している可能性が高くなるのでお勧めはしません。根気よく励んでください。1つでもウイルスフリー化ができれば、それをどんどん増殖すればよいのですからね。
中村:
厳しいお言葉!やはりそうするしかありませんか。根気ですね。
がんばります。
中村:
雌株の種子(ハナタカメン)を育成すると美味しい自然薯ができるのでしょうか。

 

飯田先生:
一般的に新たな品種を得るために沢山の株(むかご/薯)から目的とする形質を持った個体を選ぶ、系統選抜という方法があります。2つ目は、花を咲かせて受粉し種子(ハナタカメン)を形成する方法です。しかし、自然薯は雌雄異株なので、雌株の花に受粉してできた種子(ハナタカメンは雄株と雌株の融合となっているため、どのような品種になるかは未知数です。種子(ハナタカメン)は交配によるものなので、新たな遺伝子の組み合わせが起こりますが必ずしも良い系統が生まれるわけではありません。これを栽培し、数年かけて選抜及び交配(動物媒なので人工授粉を行う)を繰り返して最良な品種を作ります。時間がかかりますが品種改良として基本的な方法です。
中村:
種子(ハナタカメン)による品種改良は、今後私もチャレンジしていきたいと考えています。やはりこちらも根気のいる作業となりますね。
中村:
2001年に農山漁村文化協会より、新特産シリーズ「ジネンジョ」を発行した経緯を教えてください。
飯田先生:
約20年に渡り、自然薯のウイルスフリー化、育種、栽培方法の改良に携わってきました。農山漁村文化協会からこうした仕事をまとめて、本にしてみませんかと誘いがあり、私も研究者として公になっている自然薯の資料の少なさに疑問を持っていたため、この成果を多くの方に知ってもらいたいと思い、自然薯生産者やこれから栽培してみたいという方向けに執筆しました。
中村:
この「ジネンジョ」は今でも貴重な資料だと思います。資材の種類/栽培方法や特に自然薯のウイルスフリー化について、最近になってインターネットでは、研究論文等の情報が見受けられますが、本として公に発行されているのは飯田先生しかおられないのではないでしょうか。この本に出合わなければ、私は自らウイルスフリー茎頂培養を行うことはなかったと思います。改めてお礼申し上げます。
飯田先生:
そうおっしゃっていただけると光栄です。ありがとうございます。
中村:
現在の栽培方法とどの地域が進んでいると思われますか。
飯田先生:
肥大させすぎは、薯の粘り・香りが落ちます。収量と品質を考えるとベストは500g~600gが良いでしょう。どの地域がというのは、気候や土壌条件が違うので一概に言えませんね。生産者の皆さんは常に良い自然薯を育成することに精力的に取り組んでいますからね。資材についてもクレバーパイプから始まり、ビニールチューブ/波トタン等、安価なものからいろいろありますよね。それぞれに特徴があり、土の圧力調整ができるものや植え込み効率が良いもの等、生産者の環境にマッチした資材を使用すればよいと思います。
中村:
私も自然薯を栽培し始めた当初は1㎏以上を目指して、とにかく大きく育てていました。自生している自然薯はそんなに大きくならないと思いますし、今は粘りと灰汁対策に奮闘しています。
中村:
連作での注意点や改善方法がありましたら、教えていただけないでしょうか。
飯田先生:
優良な種イモの確保と栽培技術の両立が必須条件です。どちらかが欠けてもダメですね。連作では特に線虫の発生が気になりますね。種苗イモについてですが、切イモはウイルス病に掛かっている可能性が高いので、ウイルスフリーの1本種苗が1番安全で良いイモが安定してできます。そして、良質な堆肥を充分に圃場に与えることです。
中村:
牛糞堆肥は尿に含まれる塩分が良くないと言われていますが、いかがと思われますか。
飯田先生:
完全に発酵している牛糞堆肥であれば適正量を与える分には、塩害や塩分が自然薯の成長に影響することはないですね。
中村:
それでは、馬糞堆肥についてはどう思われますか。
飯田先生:
馬糞堆肥は良質な堆肥です。堆肥の大きな役目は、通気性や保水性の改善だと思っていますので、草を主食としている馬の糞は栄養素を殆ど含んでいないのでとても良いと思いますよ。馬糞堆肥をうたい文句にしている産直野菜農家や生産者があるほどです。
中村:
やはりそうでしたか、それはうれしい悲鳴です。実は来年度から馬糞堆肥の使用を考えておりました。私も馬糞堆肥を歌い文句にしたいと思います。神奈川県伊勢原の周辺では乗馬が盛んで、大学を含めると乗馬クラブが5か所程あるのです。かなりの量が入手できるので、2tダンプで運搬しようと考えています。
飯田先生:
馬糞堆肥を入手できるのですか。それは羨ましい。恵まれた環境にありますね。
中村:
続きまして自然薯の品種改良はどの程度進化しているのでしょうか。最新情報等ご存知でしたら教えていただけないでしょうか。
飯田先生:
地域の特産物にするために、独自の品種をつくることはいくつかで行われていますが、病害虫に強い品種とかの改良は他の作物に比べたら、殆ど存在しないと思います。ウイルスフリーの培養はあくまでも病気に感染していない健康な苗の育成ですので、品種改良とは違います。
中村:
大変ですね。地道な作業の連続なのですね。
飯田先生:
そりゃそうですよ。品種改良といえば、稲が一番進んでいると思いますが、時間だけでなく費用も相当多くかかりますからね。愛知県内では2品種(稲武1号/稲武2号)ありますが、早晩性では早生と中生ですがどちらも品質が優れ、加えて稲武2号は病気にも強く、栽培しやすい品種です。
中村:
栽培している自然薯は地域の特性があるとしても、自生している品種と差ほど変わりはないのですね。そうなると、やはり適度な薬剤の使用は避けられないですね。勉強になります。
中村:
自生している自然薯のように灰汁の強い薯は、これぞ自然薯と思いますが、市場では受け入れにくいと思っているのですがいかがでしょうか。
飯田先生:
おっしゃるとおり残念ながら、灰汁の強い自然薯は敬遠されがちです。これを好まれる方もいますが、昨今は、酸化して変色することは嫌われていますね。私も変色したら食欲がなくなりますからね。
中村:
意外とびっくりです。飯田先生もダメなのですか。自然薯も最近は灰汁の出にくい薯が主流になってきていますからね。私も灰汁の出にくい栽培方法を研究しています。
中村:
灰汁が出ない自然薯を栽培することは可能でしょうか。
飯田先生:
自然薯の特性ですから、それはできないと思います。軽減する方法はいくつかありますが、簡単な方法ですと、肥料を少なめにして、早めに肥料切れを起こすことができれば、落葉の時期が早まり多少灰汁は少なくできるでしょう。他は、灰汁の出にくい自然薯の系統選抜を繰り返して、良い品種をつくることでしょうか。
中村:
品種改良は根気と年数が掛かる大変な作業なのですね。少なめの肥料は試してみたいと思います。
中村:
先ほど早生の自然薯を開発したとおっしゃっておりましたが、早生がなぜ必要だったのでしょうか。
 
飯田先生:
愛知県では昭和50年代から自然薯を栽培しています。生産者たちの団体が、自然薯主産地協議会という組織を作られて、山間農業研究所と共同で自然薯の開発行っています。品種は2種類ありまして、稲武1号と稲武2号です。
中村:
夢とろろというのが、おっしゃられていた早生なのでしょうか。
飯田先生:
早生は、稲武1号になります。
中村:
早生は、早めに収穫したいという要望があってのことなのでしょうか。
中村:
早生というのは品種改良で作られたのですか。
飯田先生:
山間農業研究所にて、愛知県の自然薯生産者から品質の良い系統を選抜している中で、早い時期から収穫できる品種を育成しました。それが稲武1号です。早生は売り方を考えますととても重要なことです。
中村:
そうですか、実は今年の異常気象で身に沁みまして、7月の空梅雨/8月の日照不足/9月10月秋の長雨により、自然薯の成長が著しく遅れていまして、未だに熟しておりません。年末年始の贈答用の出荷に影響を及ぼしています。また、秋の収穫祭等の企画もこのままでは実施することができません。そうなりますと11月上旬に収穫できる早生の必要性があると感じています。
飯田先生:
栽培は遺伝的要素と土壌や栽培管理に左右されますので、同じ品種でも育てる環境が変われば生育に違いが出てきます。それを利用して多少なりとも栽培期間を短くすることが可能です。土壌に微生物が豊富に存在し、自然薯の生育環境が整っているのであれば、肥料を少なめに散布することにより、肥料切れを早めれば薯の熟成も早まり、天候しだいとなりますが中生や晩生でも多少早く収穫することが可能となります。また、早熟することにより、灰汁の軽減にもつながります。自然薯の成長は肥料と水分の量に大きく左右されます。肥料が多いと秋が深まったとしても肥大し続けます。更に夏以降に雨が続くと成長し続けます。理想は500g~600gです。それ以上の大きさになると粘りや香りが損なわれます。
中村:
先ほど話に出た商標登録されている「夢とろろ」は稲武2号のことなのでしょうか。
飯田先生:
そうですね。こちらは中生です。以前勤めていた山間農業研究所で育成した「稲武2号」という品種です。それは農水省のホームページを確認していただければ閲覧することができます。
中村:
有機栽培についてどのようにお考えでしょうか。
飯田先生:
有機肥料のみというのは無くはないですが、無農薬というのは考えにくいですね。種や苗の品種改良がどんなに進歩しても天候や害虫の被害を避けられません。適度な化成肥料や薬剤の散布は重要な栽培技術だと考えています。
中村:
ヤマノイモ科の中で、自然薯は長芋や大和芋など他の山芋と比べて何が優れていると思いますか。
飯田先生:
自然薯には粘りの強さに加え、成分では測れない、独自の甘みと香りがあります。大和芋の栄養成分は自然薯と同程度ですが、自然薯のように香りません。是非今度、食べ比べてみてください。その違いが分かっていただけると思います。
中村:
そうなのですか、なんだか目からうろこです。早々に食べ比べてみます。
本日はお忙しいところ、インタビューにお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。私の考えていたことの確認がたくさんできたことと、多くの情報をいただけたことに感謝いたします。
この内容は今後の自然薯づくりに生かしていきたいと思います。
飯田先生、本当にありがとうございました。
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