自然薯のウイルス病による収量低下
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自然薯のウイルス病による収量低下

自然薯が圃場(畑)で栽培されるようになったのは、地中に塩ビパイプを設置してパイプの中で生育させる栽培方法が開発されたからである。その後、いろいろな形状や栽培方式が開発され、全国各地で栽培されるようになった。しかし年を追う毎に大きな問題が浮上してきた。アブラムシが葉に寄生し吸汁によるウイルス病が蔓延するようになり、イモが肥大せずに収穫量が減少するようになったのである。病原は、ヤマノイモモザイクウイルスと言われるウイルス病である。感染した場合の症状で最も分かりやすいのは、葉の変色である。緑色の葉が部分的に色抜けしてくる症状で、モザイク柄のように見える。

日光に透かしてみると退緑色のムラになっているのが分かる。酷くなると縮れや蔓の伸びが悪くなり早枯れする。確認しやすい時期があり、葉が4~5枚に成長した時期と梅雨前である。高温期に入るとモザイク症状が薄れ感染を発見しづらくなる。原因はいくつかあるが、最大の理由は収穫した自然薯やむかごを翌年の種苗イモとして使用することにある。自然薯は栽培化されて歴史も浅く、ウイルス抵抗性を改良する開発が長芋や大和芋等に比べ進んでいないのが現状である。そのため食用として圃場(畑)で栽培する場合にアブラムシやハダニ等の害虫に対して、他の作物に比べて極めて抵抗力が弱いのである。これが自然薯の有機栽培が、難しいという理由である。山野に自生している自然薯は同じ場所で生育を繰り返すことが多いので、殆どがウイルス病に感染しているといっても過言ではない。感染している株を発見したら植え付けた種苗イモともに抜き取り、焼却処分するのが望ましい。ウイルス病に感染し、更にハダニの被害を受けた場合には生長が著しく弱まり、紅葉するかのように葉が黄色味を帯びて早枯れする。農薬散布をしても殆ど回復の見込みはない。ウイルス病に感染してしまうと治療することができず、それを繰り返し種苗イモとして使用すると症状が更に悪化する。自然薯の縮小化が進行し収穫量に多大な影響を及ぼすこととなる。対処方法は現在のところ、ウイルス病に感染していない種苗イモを使用し、予防するしかない。種苗イモの生産販売をしているメーカーや農園はあるが、ごく僅かである。本来これらの種苗イモを使用するのが望ましいが、価格も高価なものになっているのが現状である。自らウイルスに感染していない種苗イモを栽培するには大変な手間が掛かるため、収穫した自然薯を翌年の種苗イモとして使用してしまい、収量低下や圃場(畑)の土壌環境に乱れが生じてしまうのである。食用にした場合だが、このような状態でも、収穫した自然薯に小ささを感じても形に異変は見られない。すりおろした時の粘りや灰汁による変色も健全な自然薯とほとんど変わらないと言われている。

自然薯のウイルスフリー培養について
ウイルスフリーにするには、茎頂(成長点)培養を行う必要がある。自然薯の新芽の中にある成長点を摘出し、培養することである。ウイルス病に感染している株でも、成長点はウイルス病に感染していないと言われている。それは成長点の方が、ウイルス感染より速いスピードで生育するためである。そのため新芽の摘出後、早急に行えばウイルスフリーの成長点を摘出できるのである。それを培養すればウイルスフリーの種苗イモが収穫できる。そしてウイルスフリー原種として隔離温室等で管理し、株を維持できれば、常にウイルスフリーの種苗イモを入手できることとなる。ということで、一個人が取り組むにはハードルが高すぎると思ったが、自分で作ろうと思いたった。本来メーカーや研究者らが行っているので簡単なことではないことは百も承知の上である。自ら立ち上がったのには理由がある。それは丹沢の大山に自生している自然薯を栽培したいからである。農山漁村文化協会(農文協) 新特産シリーズ 著者:飯田孝則「ジネンジョ」のウイルスフリー化の茎頂培養の手順と農業技術大系 野菜編 第10巻 執筆:飯田孝則「ジネンジョのウイルスフリー種苗」〈追録第29号・2004年〉のウイルスフリー種苗の育成と供給を参考に、神奈川県農業技術センターのオープンラボラトリーをお借りして、農学博士の指導をいただきながら2017年6月より、培養を開始した。2018年ウイルスフリー化成功→2020年量産予定。

まずは、培養に使用する株にアブラムシが飛来しないよう目合い0.6㎜の防虫ネットで圃場(畑)を囲い、防虫ハウスを作ることから始めた。同時にむかごを蒔き、2018年用の1本種苗も栽培する。

この圃場(畑)ではアブラムシの心配はそれほどでもないが、ハダニには要注意が必要であった。
薬剤をここ数年いろいろ試してみた個人的感想だが、ハダニにはコロマイト乳剤が効くように思う。予防として散布した。更にウイルスフリーを意識して念のため、アブラムシ用にトレボン乳剤も散布した。

ウイスフリー化の茎頂培養の手順を図式化


早朝、防虫ハウスの圃場(畑)から採取した茎をクーラーボックス(氷入り)に保管した。
運搬時、植物体を水に漬けてしまうと雑菌が生長点についてしまう可能性があるので、水に漬けないで低温にして植物体の消耗を防ぐことを農学博士の方に教えていただいた。

茎を先端5㎝程に切断する。
シャーレに茎を置き、70%のエタノールで1分間浸漬けする。ビーカーに0.5%の次亜塩素酸ナトリウム液:10ml/ミリQ水(超純水):90ml/界面活性剤Tween-20(1/10
):100μl/茎を入れ、8分~10分浸漬けして殺菌する。
クリーンベンチ(無菌室)に運び、滅菌水で2回洗浄する。
非常に細かい作業なので、実体顕微鏡を使用し慎重に成長点を摘出する。

ピンセットとメスで、芽の先端部分を少しずつ切り取り、0.2㎜~0.4㎜の大きさで成長点を摘出する。
※それ以上大きく摘出するとウイルス感染の可能性が出てくる。

摘出した成長点を試験管内のMS基本培地上に置床する。

隔離温室内に移し、温度25℃/照度2,000㏓で16時間日長する。

MS基本培地上での成長の様子。
1か月毎に新しいMS基本培地に移植し伸長を促進させる。

茎葉の分化
成長点の置床後約2か月で茎葉が分化し蔓が伸長してくると、
徐々に発根が見受けられるようになる。この状態からのMS基本培地の移植には植物ホルモン(ナフタレン酢酸/ベンジルアデニン)を添加していないものを使用する。

発 根
発根の伸長が促進され1か月~2ヶ月で、鉢用土から養水分を吸収できる根の伸長が見受けられるようになる。

順 化
MS基本培地から育苗用土を用いてポットに植え、伸長状況を観察する。
※順化とは異なった環境に移された時、その環境に適応するような体質に変わることである。

培養株の養成
順化が完了し、株の生育が始まったら大きめの鉢に植え替え、支柱を立てて蔓を誘引し株の養成を図る。
ある程度の生長が見受けられたら、液肥を与えて更なる生長を促す。
ウイルス検定
株の養成中に、ウイルス症状が現れていないか観察し、ウイルス症状の疑いがある株は根毎引き抜き廃棄する。
ウイルスに感染していないと思われる健全な株のウイルス検定を行う。
2018年10月10日(土)Potyイムノストリップキットを使用し、ウイルス検定を行った結果が以下のとおりである。陽性反応となりウイルスフリー化に成功した。自然薯では神奈川県で初めての事例となった。

ウイルスフリー株育成
ウイルスフリーが確認されたら、その株はウイルスフリー原種として、隔離温室等で厳重に管理する。
自然薯家のウイルスフリー原種は、神奈川県農業技術センターにて培地継代を行い養成している。
この株を維持できれば頻繁にウイルスフリー化のために、成長点を培養する必要はなくなる。
ウイルスフリー原種からむかごを収穫し増殖すればよいこととなる。
むかごを防虫ハウスにて栽培し1本種苗を育成する。
翌年ウイルスフリーの自然薯を収穫し、圃場(畑)では安定した収穫量が期待できるようになる。
この苗は、今後販売も検討している。

培地作成(MS基本培地)について
スクロース(ショ糖)20g

MS混合塩類1l用1袋

ビタミン1ml

脱イオン水800mlを入れかき混ぜる。

IN KOHでph5.8に調整する。
ph調整後、ミリQ水(超純水)を加え、1,000mlにする。

寒天8gを加え、透明になる沸騰直前まで加熱する。

ホルモンNAA(ナフタレン酢酸)0.1㎎/l+BA(ベンジルアデニン)0.1㎎/lを加える。
試験管に分注し、アルミホイルで蓋をする。
オートクレーブで15分間120℃加熱してできあがり。

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